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資源ゴミ置き場

あまり健全ではない文章を置いていく場所だと思います。

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追憶Ⅰ

 
 (まえがきのような何か)
 この文章はほぼ全てがねつ造です。主にレヴラスがグレース(レントンの妹)より年上であること前提。語り手はレヴラスさんです。
 あと、割と口汚い表現があるので不快になるかもしれません。

 

  
 それはある日の夏の午後だった。
 その日の私は、ギルド長としての業務の合間に休憩を取ろうとギルド内の談話室に足を運んでいた。
 昼食の時間帯に差し掛かった談話室はとても混んでいる。そのため、私は敢えて昼食の時間帯を避けて休憩を取ることが日課になっていた。
 講義の時間と重なっているためか、この時間帯の談話室は人が少なく静かであることが多い。
 だが、その日の談話室はやけに賑やかだった。
 それは、三人の女子生徒がテーブルの上に本や菓子を広げてぺちゃくちゃと喋っていたからだ。
 彼女らを目にした時、今となっては遠い記憶の中にしかいないレントンの妹のことが頭をよぎった。
 何故かというと、彼女の面影を女子生徒たちに見出してしまったからだったのだ。どの娘も、あの娘に全く似てなどいなかったのだが。
 あの娘――レントンの妹は確か「グレース」という名前だっただろうか。彼女とは特別親しかったわけでないが、まだ私が少年だった頃に何度か顔を合わせることはあった覚えがある。
 あの娘はいつも野草や虫を触っていたり、一人で好きな植物のスケッチをしたりしていた。
 かつてレントンから聞いた話によれば、彼女はことあるごと「同年代の子と仲良くする方法が分からない」だとか「みんなに嫌われている気がする」などと零していたらしい。
 年頃の娘が集まって話す内容といったらせいぜい色恋か化粧の話か、そうでなければ周囲の人間の悪口だ。
 いつも化粧っ気のない堅い服装をしていて色恋沙汰とも縁遠い風情を醸し出していた彼女が年頃の娘の仲間と色恋や化粧の話題についていくなど無理だろうし、どちらかといえば悪口を言われる側に回ることも多かったのではないか。
 年頃の娘たちの人間関係というのはとてもややこしいものなのだ。
 そんなことは、魔術士としての業務に愚直なまで勤しんでいた兄には理解できなかっただろう。
 あの娘がどうすれば自分を見失うことなく生きられたかなんて私にも分からないことだ。
 考えてもどうしようもないことに思考を割くくらいならこの先にできることを考える方が合理的だ。
 私は女子生徒たちが座るテーブルから少し離れたところにあるソファに腰を下ろすと、息を吐き出した。
 私もそろそろ甘いものが欲しくなる頃だ。後で砂糖をたっぷりと入れたハーブ茶と一緒にアピの実シュークリームでも食べようか。
「それでさぁ。最近、コルセットがきつくてダイエットしなくちゃって」
「何言ってんのよ。あんた、そのままでも十分細いじゃない。私なんてコルセットを外したらお腹が出ちゃってさあ……」
「それくらいいいじゃん。いいよねえ、風の女神様って。あたしもあんな綺麗なスタイルになりたいなあ。前は男子に癒しの女神みたいだって言われたけどそれって幼児体系ってことじゃない!」
 ――女子生徒たちは大声で喋っているのでここまで会話が筒抜けだ。彼女らは自分の容姿を貶しつつ、相手の否定の言葉を待っているのだろう。そして、相手もまたそれを汲み取って否定の言葉をかけてやらねばならない。
 そこで、率直に「お菓子ばかり食べるのがいけない」などと言えば顰蹙を買うのは明らかだ。
 彼女らは口ではダイエットなどと言っているが、テーブルの上に広げられたたくさんの菓子を見ていると本気でダイエットをする気などないらしい。
 相手がどんな言葉を求めているのか察し合う――そんな芸当があの生真面目な娘にできたなどと思えない。
「ねえねえ。そんなことより聞いてよ。さっきの講義で先週の小試験の結果が返されたじゃない。私、点数が本当にやばくてさ……単位落としそうで本当に病むわ」
「ああ、あたしも結果はダメ。ダメ、本当にダメ。大体、あいつの講義って評価が厳しすぎるのよ。そう思わない?」
「確かにあの教官の講義って評価厳しいよね、わたしの友達は実習で散々ひどい評価を付けられちゃったらしいよ」
「たまに何の通達もなく休講にするからラッキーって思ってたけど自習しておかないとダメな奴だったってわけ。評価を厳しくするくらいだったら休講なんてせずもうちょっと評価を易しくしてほしいなあ」
 私がぼんやりしているうち、娘たちの話題はダイエットからこのギルドでの講義のことに移っていた。
 講義の評価が厳しい教官となれば誰のことを言っているかは大体絞られる。
「それからさ、あいつって生徒の顔を覚えようとしないじゃん。前も『君は誰だ?』なんて言われて本当にムカついたわ。今期の講義は何回目ですか、エーテルに頭をやられて痴呆になっているんですかって感じ」
「あー。わたしも前に名前間違われたことある。でもエーテル病はいくら何でも……」
「きっとやる気がないのよ。講義は堅苦しくてつまんないわ、休講は多いわ、そのくせ評価は厳しいわって誉めるところがまったく何にもない。余程変わり者の人間だったら好きなのかもしれないけど、あたしはあの教官、大っ嫌い。プロフェッサーだか何だからないけどまともに講義もせず調子に乗ってんじゃねえよ。何が『成績の評価に努力は一切考慮しない』よ。その澄ましたツラの皮剥いでやろうか?って感じ。それから無駄に長い髪なのにいつもボサボサでさ、まとめるか切るかしろよって」
「あんた、レントン教官に余程恨みが溜まってんだねえ。まあ、私もあいつ苦手なんだけどさ。あいつ、いつも怖い顔してるから質問したくてもしづらいんだわ」
「ふーん。あいつに寄ってくるのなんてカタツムリくらいじゃないの? それか、カラスが巣作りに寄ってくるかもね。アハハ!」
「あんたって何でそんなにレントン教官のことを嫌ってるわけ? 何かあったの?」
「何もないわよ、ただ嫌い。生理的に受け付けない。それだけのこと。だいたい、何であんな人望のなさそうな人間がこのギルドで教官なんてやってんだか。あんなのがここにいても有害無益よ。さっさと失せればいいのに。っていうか死ねよ。ミンチになって死ね」
 やはり、女子生徒が話題にしていたのはレントンのことだったらしい。彼は確かに時折何の断りもなく講義を休んでしまうことがある。その上、講義中の生徒への評価は厳しいと来たものだから顰蹙は買うかもしれない。
 だが、それはそうとしてもひどい言われようだ。
 女が三人揃えばこうも他人の悪口が出るものなのか。私は、改めて恐怖を覚えずにいられなかった。
 しかし、死ねだとかミンチになれだとかはいくら嫌いだといってもあまりに言うことが悪辣すぎる。
「あ。あたし、そろそろ用事があるんだわ。それじゃあね」
「ああ、うん。またね」
 どうやら、レントンへの罵詈雑言をまくし立てていた女子生徒が抜けるようだ。
 私は息をひそめるように立ち上がって本棚から新しい本を手に取ると、再びソファに腰を下ろした。
「あーあ。やっと行ってくれたわ。あの子の相手をしていたら本当に疲れるったら」
「今日はひどかったね……レントン教官がちょっと可哀相になってきちゃった」
「確かにあの子の言うことは少し分かるけれど、あそこまで行くと異常よ。だいたい、ただの逆恨みじゃないの? 一体何なんだか」
「うーん。あ、そういえば、今思い出した話なんだけど……」
「何? 思い出したことって」
「えっとね。でも、喋ってもいいことなのかなあ……」
「何よ。そんなこと聞いてみないと分かんないじゃん」
「あのね。本当かどうか分からないんだけど、あの子から聞いた話……」
 そこで、私は再び聞き耳を立てた。
 あの悪辣な物言いをしていた女子生徒とレントンの間に何かがあったのだろうか。
「なになに、喋ってよ」
「うん。他の人には絶対喋らないでね」
「分かった。分かったから。勿体ぶらないでよ」
「うん。ここだけの話なんだけど……あの子ってさ、前はレントン教官のことをあんなに悪く言う子じゃなかったんだ。悪口を言うようになる前、何度か単位を落とした時に単位をくれるようレントン教官に頼んだことがあったらしいんだけど……」
「ふーん、そんなことよくある話じゃん。それがどうかしたの?」
「それが、手作りのお菓子を作って持っていったりしていたらしいんだ。でもあの教官って厳しいじゃん。勿論それで単位が貰えることも、持っていったものが受け取ってもらえることもなかったって」
「えー。それって教官に媚びていたってわけ? だいたい、よく知りもしない生徒から手作りのお菓子なんて貰っても普通受け取れないでしょ。私だったら嫌」
「確かにそうだよね。それも、何度も持っていったって言うんだから……あの子はその時のやり取りの中でレントン教官に気持ちを踏みにじられたとか言っていたけれどやっぱり逆恨みじゃないかなって」
「そりゃ逆恨みでしょ」
「あと、あの子、レントン教官にお茶をかけられたとも言っていたんだけど、内心ざまあみろって思っちゃった」
「あー、私も思った。あいつ、どこか空気読めないし、疲れるんだわ。どうせレントン教官にお茶かけられたっていうのもあまりにしつこかったからじゃない?」
「さっきダイエットの話をしていた時も、何だか自虐するふりをしながら自慢しているみたいで嫌だったな……癒しの女神みたいだって言われたとか。聞いていたらイライラする」
「あいつが癒しの女神みたいだって? あれのどこが癒しの女神よ。笑わせんなって」
 残った女子生徒の二人はどうやら先程の悪辣な物言いの女子生徒の悪口を言い始めたようだ。
 年頃の娘に限らず人間というものは、どうあがいても他人の悪口を言わずにはいられないものなのか。
 私は改めてげんなりとした気持ちになり、こめかみを指で押さえた。
 しかし、想定していたことではあるが、単位欲しさから教官に媚びる生徒がいるのは問題だ。
 そして、教官が生徒の媚びに屈することがあってはなお問題だ。
 そうした点では、レントンのある種の冷徹さは信頼できるとも言える。
 よく知りもしない生徒から渡される手作りの菓子を受け取らないという選択もまた正しい。
 もし私が同じように手作りの菓子を渡されたとしたら、まず絶対に受け取らないだろう。
 出どころの分からない食品には何が入っているか分からない。もし毒物や媚薬の類でも入っていれば大変だ。そうでなくても、私は他人の手垢が付いている食品など食べたくない。
 だが、生徒の申し出を断るだけならまだしも茶をかけるのはさすがにやりすぎではないか。
 あるいは、生徒とのやり取りの中で相手へ茶をかけるほど激昂する理由でもあったのだろうか。
 とはいえ、それが相手に茶をかけてもいい理由にはならない。まず、このギルドで指導者という立場にいる者が生徒といがみ合うことは害にしかならない。
 そもそも女子生徒の話が本当かどうかは分からないのだが、このことについてはまた探りを入れておかなければならないだろう。
 さて、そろそろ自室に戻ろう。暑さのせいで喉が渇いてきたのだ。
 私は先程から全く読み進めないままになっていた本を閉じると、ソファから立ち上がった。
 談話室を出る時、このギルドの長が居たことににようやく気付いた女子生徒たちが何かをこそこそと喋るのが聞こえたが、その内容は殆ど聞き取れなかった。
  

 *おしまい?*
 

 

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