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資源ゴミ置き場

あまり健全ではない文章を置いていく場所だと思います。

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風速150m


 (まえがきのようなもの)
 この文章は、ゆめにっきファンゲーム「くだらぬ妄想の」のかざぐるまと神社にいるあの人(通称15円の人・15円おじさん)のお話です。
 これといった致命的なネタバレはしていないものの該当作品をプレイしてからの閲覧を*強く*お勧めします。
 かざぐるまと15円の人の境遇などの大半が捏造なのでご注意ください。二人共かなり病んでいます。


 

 
 あの人と最初に出会ったのはいつだったのか。どこで出会ったのか。それは今となっては思い出せない。
 ただ、「気が付いた時にはいた」としか言いようがない。
 ああ、そうだ。前に入院していた病院でたまたま会ったのが初めてだったかな。
 ぼくも、あの人も、患者として入院していた。
 あの人は、一ヶ月ほど入院していたと言っていたっけ。確か、前の職場で倒れたとか言っていたような気がする。
 薬の飲みすぎだったと言っていたっけ。それとも、お酒の飲みすぎだと言っていたっけ。それは忘れた。
 あの人の腕は赤い切り傷だらけで東北の辺りで生産されているらしい赤筋の大根みたいだった。
 ぼくは、リストカットなんてする人の気持ちが理解できない。腕を切っても何かが変わるわけじゃないし、大体腕に傷跡が残って汚くなってしまう。
 汚い腕じゃ可愛い服だって浴衣だって着れなくなってしまうし。
 クラスの女の子にも何人かリストカットをしている子はいたけど、体育の日は暑くてもジャージを着なくちゃいけないし夏服でもカーディガンが手放せないみたいだった。
 そんな面倒くさいことになるのに、どうして手首なんか切っちゃうんだろうね? 分からないや。
 ぼくの方はといえば、正直自分がどうして入院していたのかはっきり分からない。
 確かに、学校に行くのが嫌になったり理由もなく憂鬱な気分だったりしたことはあった。
 漢字のテストで思ったよりいい点が取れなかったとか、英語の小テストの範囲を自分だけ間違えて覚えていたとか、そんな些細なことで気分が悪くて立ち上がれなくなるほど落ち込んだこともあった。
 でも、それだけで病気なんてわけがない。そんなの、みんなにもあることでしょう?
 あとはそうだ。何となくみんなと同じ食事をするのが嫌になってバカみたいに痩せたことならあった。
 別に自分がおデブさんだと思ったわけじゃないしダイエットがしたかったわけでもないんだけど。
 何となく少しの野菜と果物(これは何故か普通に食べられた)だけで一日の食事を済ませるのを続けていたら学校で何度も倒れるようになっちゃったんだったな。
 確か、そのせいで栄養状態が大変なことになっていたんだっけ。そのせいで心臓が止まってしまうかもしれなかったとか。ぼくが知っているのはこれだけ。
 入院してからは毎日点滴を入れられて、体重が40キロを超えるまで退院はできないとか言われていた。
 あと、食事を吐いていないかチェックされた。ぼくがそんなバカなことするわけないのに。
 でも、あまりにそう言われたら吐いてみたくなって一回だけトイレで吐こうとしてみたけど無理だった。やっぱり食べたものをわざわざ吐く人の気持ちは分からないや。
 吐くくらいなら最初から食べなければいいんだ。だからぼくは食べなかった。
 それから、病院はやっぱり退屈でやたら歩き回った。そうしたら安静にしていなさいと叱られちゃったんだけど。
 一度、看護師さんの反応を見てみたくて点滴の針を抜いたら烈火のごとく怒られた。だから、それ以降は大人しくすることにした。
 心電図まで付けられて、仰々しいなあと思っていたんだけどお姉ちゃんがとても悲しそうだったのを忘れられない。
 そうこうして過ごすうちにぼくの体重はどんどん増え続けて軽く40キロを超えた。
 ぼくはせっかく減った体重が元に戻っていくのが少し残念だったんだけどそれでもまだ痩せすぎているらしい。
 でも、人がどんな体重だろうと勝手でしょうとぼくは思う。おデブさんだろうと、ガリガリだろうと、人に迷惑がかからなければいいんじゃないのと。
 あと、体重が40キロを超えてからは暫く止まっていた生理が来るようになった。生理が止まっていたのは便利だと思って気にしていなかったんだけどやっぱり生理が止まるのも良くないことだったとお医者さんから言われてしまった。
 でも、体重が元に戻って生理が来るようになったおかげで退院の許可が下りたからいいか。
 そうそう。ぼくのことはここまでにして話を戻そうか。
 
 あの人は、ぼくが看護師さんやお医者さんとくだらぬバトルを繰り広げている間に病院からいなくなっていた。
 もう二度と会うことはないだろうなあと思っていたのだけどそれはとんだ間違いだったらしい。
 あの人ことおじさんは、いつの間にかぼくの近くにいた。そうとしか言えない。
 そして、今のぼくはおじさんと縁日で露店を歩いている。
 その時になってこの人が36才になることとか初めて知った。最初は23才くらいかなと思っていたから驚いたな。
 何でこんなに若見えするんだろう。外見の年を取らない呪いか成長が止まる呪いでもかけられているとしか思えない。
「ビールかあ。いいねえ。でもね、僕はうつ病の薬を飲んでいるからお酒は止められているんだ。薬とお酒を一緒に飲むと心臓が止まってしまうかもしれないって散々言われていてさ。そういえば、かざちゃんも未成年だからお酒は飲めないね」
 おじさんは露店をきょろきょろ見ながらぺらぺらと聞いてもないことを喋り続けている。
 どこかくたびれた感じとか、へらへらしているくせに目が全然笑っていないところとか、どこか病んだ感じなのは病院で会った時と全然変わっていないんだけど、それってつまりまだ治っていないってことだよね?
 ぼくも、病院にいた頃と変わっていない風に見られていたら嫌だなあ。これでもぼくは治っているつもりだ。
 その時、りんご飴やいちご飴を売っている店が目に留まった。
 ぼくはすかさず店の前に駆け寄り、店番のおばさんの前で200円のいちご飴を指差す。
 りんご飴を選ばなかったのは大きすぎて飴の欠片を落としそうだからだ。
 おばさんに200円を渡して受け取ったいちご飴にぼくは歯を立てた。
 おじさんはそんなぼくを嬉しそうに眺めている。別にそんなに嬉しそうに見なくてもいいのに。
 ぼくがいちご飴を食べ終わるや否や、おじさんが喋り始める。
「ねえねえ、知っているかい? 『苺』って漢字で書くとくさかんむりに『母』と書くけれど、あれって苺の形が女性の乳首に似ているからなんだよ」
 と。
 それを聞いた時、ぼくは凍りついた。これって一歩間違えたらセクハラだ。
 でも、おじさんはあくまでそんなことを気にしていない様子だ。それか、本当に気付いていないのかもしれない。
「……へえ、そうなんだ。おじさんって物知りなんだね……」
 ぼくは口元が引きつりそうなのを抑えて笑顔を作った。
「いやあ。嬉しいなあ。昔から勉強をすることだけは好きだったんだ。でも、数学は苦手でね。かざちゃんは何か好きな科目あるの?」
「……うーん、別にないや。でも、理科の実験は少し面白いと思うかな。あとは美術か」
 ぼくは別に勉強が好きなわけじゃない。数学も英語もからっきしだ。現代国語だけならあまり勉強しなくてもそこそこいい点が取れるくらいで、古典になるとこれが同じ日本語なのか?と疑いたくなる。
「へえ、美術かあ。かざちゃんの絵、見てみたいなあ」
「見せないよ。ちょっと面白いと思うくらいで下手くそだし」
「ええ、ひどいなあ」
 おじさんは相変わらずへらへらとした笑みを浮かべている。
 そういえば、さっきから気になっていたんだけどおじさんが近くにいると何だか臭い。
 臭いとは言っても、不潔な臭いではない。
 では、何なのかというと煙草くさいのだ。それに加え、洗剤か柔軟剤の臭いが混じっている。
 そういえば、病院にいた時もおじさんはよく喫煙室で煙草を吸っていたっけ。
 おじさんの傍で息を吸うと、煙草と洗剤か柔軟剤の混じった臭いが鼻腔内に充満して不愉快だ。
 でも、率直に「臭い」と言うのはデリカシーがない。だけど、敢えてその言葉を口にしてみたくなってしまったのだ。
 さっき、いちご飴の時にセクハラ紛いのことを言われているんだからそれくらい許されるよね?
「そういえば、おじさん」
「ん? どうしたんだい?」
「おじさんって煙草とかよく吸うの? おじさんの近くにいたら煙草くさいんだけど」 
 僕が尋ねると、おじさんは白いTシャツの袖に鼻を埋めてすんすんと息を吸った。
「煙草は吸うけどそんなに臭うかなあ?」
「すごく臭い。おじさんの鼻、バカになってない?」
「ひどいなあ。これでも毎日お風呂には入っているし、洗濯だって毎日してるんだよ? 洗剤や柔軟剤もたっぷり使ってさぁ」
 洗剤の臭いが鼻につくのはどうやらそのせいらしい。毎回洗濯のたびにどれだけ洗剤と柔軟剤使っているんだよ。
「おじさん、ちゃんと洗剤の分量とか計ってる? 洗剤の臭いもひどいよ」
「いやあ、計ってないよ。たくさん入れるほどよく汚れが落ちる気がして。それに、計算ごとは苦手でね」
「おじさんの横にいたら臭いから嫌!」
 ぼくは無性に腹が立ち、目の前の社に続く階段をずんずんと上り始めた。
「ああっ、かざちゃん。待ってよお。機嫌直してってば」
 おじさんが後から付いてくるけれど構うものか。
 そうはいっても、ぼくもこの階段は少しきつい。いや、少しどころじゃなくかなりきつい。
 心臓がどくどくと毒々しい音を立て、息が切れる。昔はこんな階段、軽く上れたはずなのにおかしいなあ。
 やっぱり、バカみたいに痩せたのが悪かったのかな。それとも、退院した後も肉をあまり食べないのが悪かったのかな。
 そういえば、ホセくんとかお姉ちゃんと焼き肉に行ったってぼくは肉を2、3枚ほど食べただけで後はフルーツばかり食べていた。
 何とか階段を上りきった頃には頭がガンガンと痛んでへたり込んでしまった。
 そんなぼくの傍で、おじさんもぜえぜえと息をしながらへたり込んでいた。
「……かざちゃん。小さい頃はこんな階段なんてひとっ飛びとでもいうくらい軽く上っていたのにね、昔はとても明るくて元気な子だったじゃないか…………」
「……え? 小さい頃って何? ぼくには覚えがないんだけど」
 ぼくは、この人の言っていることが理解できなかった。小さい頃って何? おじさんはぼくを昔から知っていたってこと?
「……そうか。かざちゃんは覚えていないんだね。昔はよく一緒に遊んでいたのにね。僕がまだこんなクズじゃなかった頃のことも忘れちゃったんだよね」
 おじさんは大きく咳き込むと、そのまま俯いてしまった。
 忘れたことがそんなにこの人を傷付けたのというのかな。でも、記憶にないのだからどうしようもない。
 そんなことを考えている間にも、おじさんは咳き込んでは苦しそうに呼吸を繰り返している。
「…………こんな階段、僕にはもう無理だ。煙草なんか吸っていたらすぐに息が切れてしまう。きっと、こんな身体じゃあまり長く生きられない」
 この人はどうやらかなり煙草を吸っているらしい。そんなに苦しいなら煙草なんてやめたらいいのに。煙草を買うのも、たばこ税とかでかなりお金を使うんでしょう?
 肺を傷付けて、金銭的な負担をかけてまでして吸わなければいけないものなんだろうか?
「それじゃあ、煙草やめたらいいじゃん。やめたらちょっとは体調も良くなるんじゃない?」
「いや、煙草をやめる気はないよ。僕はね。こんな人生、煙草くらいしか楽しみがないんだ。何を食べても美味しくないし、仕事は失敗ばかりで長続きしないし、お酒は医者に止められちゃっているし。それに、こんなクズな自分は大嫌いだし、こんな人生に願うことなんか何一つない」
 そんなことを言いながら、おじさんは力なく笑った。
「あのね。かざちゃんと病院でまた会えた時、少し嬉しかったけどそれよりもずっと悲しかった。かざちゃんも『こちら側』の人間になっちゃったんだと思って。一度心を病むとね、その先の人生はとても苦しいものになるんだ。今もそういう人への偏見は根深いからね。友達も恋人も離れていくし、家族からも白い目で見られる。僕はね、そんな風にして周囲の人間と病気に追い詰められて自ら命を絶つ人を何人も見てきた」
 おじさんは、まるで呪文でも唱えるように喋り続ける。
 ちょっと待ってほしい。この人は一体何を言っているんだろう?。
 こちら側? こちら側って何? ぼくには何のことだかよく分からない。
「そんなこと言われても、お姉ちゃんは相変わらず優しいしホセくんは相変わらず友達でいてくれているよ? ……確かに、友達は少ないけどさ」
「……そうか。かざちゃんは幸福者だ。たとえ気を遣われているだけだとしても、そういう人がいるだけ恵まれている」
 おじさんはそう呟くと、また俯いてしまった。そして、頻りに鼻をすすり続けている。
 そして、おじさんの座り込んでいる石畳にはぽつぽつと斑のような暗い影が落ちていく。
 この人は泣いている。それを理解するのに時間は要さなかった。
「何も願うことなんかないなんて嘘だ。本当はね、僕だって『普通』に生きたかった。普通に学校を出て、普通に就職をして、普通に結婚をして、普通に子供を可愛がって…………どうして僕はそれができないのだろう。ねえ、僕は一体どこで足を踏み外してしまったのかなあ。こんな気持ち、かざちゃんには分からないよね? いや、ずっと分からなくていい」
 さっきまでへらへらと笑っていた人が今はぐずぐずと泣きじゃくっている。
 人の感情というのはこんなにも目まぐるしく移ろうものなんだろうか。
 これではまるで、吹く方向が定まらない風のようだ。
 泣いているおじさんの瞼や鼻は、元々色白なせいで赤く腫れているのが嫌に目立っている。そして、流れた涙は鼻先からも滴り落ちている。
 人の泣いた顔ってこんなにも不細工なものなのか。
 正直に言えば、この人はそこそこきれいな顔をしている。それが、泣いてみればこのひどい有り様だ。
 ぼくは、目の前で泣きじゃくるこの男が得体の知れない不気味な生き物に思えて仕方なかった。
「かざちゃん」
 不意に、おじさんがぼくを呼んだ。
 そして、気が付くとおじさんはぼくの左手首を掴んでいたのだ。
「ちょっと、おじさん。痛い、ちょっとやめてってば」
 おじさんは病気とはいえ、結構な握力があるらしい。手を振りほどこうとしたが、それは無理だった。
「ねえ、お願いがあるんだ…………しばらく、傍にいてほしい。逃げないでほしい。どこにも行かないで」
 おじさんの手に目をやると、Tシャツの袖口から平行に並んだ新しい傷が覗いている。
 その赤線を認めると、背筋が凍るほどの憐憫の感情が押し寄せた。
 そして、逃げようとしていたぼくはおじさんの右隣に腰を下ろしていた。
「かざちゃんは、とても優しいね。本当にごめんね」
 おじさんはぼくの手首を掴んだまま、呟いた。
 その時、風が吹いてあの煙草と洗剤の入り混じる臭いが鼻を掠めた。

 *おしまい*



 (おまけのような文章)
 筆者はかざぐるまの病気を心の病だったのかもしれないと考えています。
 15円の人のイベント後にかざぐるまの部屋が緑色に染まる演出は嗅覚に訴えかけるものを感じました。煙草と洗剤は筆者の完全なイメージ。
 彼は最初に姿を見た時にあまり健康的な印象がなかったのとjose編で会える場所が場所だけにもしかしたら患者だったのかもしれないという可能性を思い描いてしまいました。
 あと、彼が感情を剥き出しにした姿はかざぐるまにとって醜悪に映ったのかもしれません。

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