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資源ゴミ置き場

あまり健全ではない文章を置いていく場所だと思います。

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風速150m(2)


 (まえがきのようなもの)

 この文章は、引き続き「くだらぬ妄想の」の文章となっております。
 主にこれの裏面エピソードのようなものです。主に15円の人視点。
 15円の人は相変わらず不安定だしかなり病んでいます。かざぐるま視点の分と一人称が違うのは仕様です。




 先程から、頭ががんがんと痛み、瞼がひりひりと痛み続けている。
 でも、この痛みの理由なら分かりきっている。頭と瞼が痛むのは何時間も泣き続けたせいだ。
 オレは考える。こんな自分の身に一体何があったのだろうと。
 何故こんなことを考えないといけないかというと、この一日の記憶が殆ど失われていたからだ。
 記憶喪失といえば自分が今までどのように生きてきたかとか、自分が何者かなどを全て忘れるものが有名だが、オレは決してそんなものではない。
 ただ、この一日の記憶が洪水で破壊された街か、炎に焼かれて更地と化した森のようにぽっかりと空いてしまっている。
 そこで、ふと幼い頃に読んだ不思議の国のアリスの絵本のことが頭をよぎった。
 あの物語では、うさぎの穴に落ちたアリスは大小の扉がいくつも並ぶ広間に迷い込む。
 そして、扉の中から女王の庭園に続く小さい扉を見つけて何とか通り抜けようと画策するのだがそれは全て失敗に終わってしまう。
 アリスは背丈が三メートル近くの大女になった際にとうとう泣き出し、何十リットルもの涙を流して広間を水浸しにしてしまう。
 その結果、海のように広い涙の池だけが残って広間も女王の庭に続く扉も消えてしまった。
 それから、あの物語の涙の池の章で大女になったアリスは泣きながら自分のことを叱り続ける。こんな大きななりで泣くなんて恥ずかしくないのかと。
 後から知ったことだが、あの物語中でアリスはまだ七才の幼子なのだという。
 その時は、まだ七才の少女が泣く自分を叱り続けることを何と残酷なのだろうと思ったものだ。
 現に、いい歳して記憶を失うほど泣いていた男がここにいる。それを思うと、アリスはあまりにも自分に厳しすぎるだろう。
 オレの記憶は、あの物語の広間と同じように涙と共に押し流されてしまったのだろうか。
 部屋を見回し、傍にあるくずかごに目をやると、乾きかけの丸めたティッシュがいくつも中に投げ込まれていた。
 オレはどうやらこの部屋で泣き続けていたようだ。こんなことをいちいち考えるのも馬鹿馬鹿しいのだが。
 次に、オレは壁に吊るされた時計とカレンダーに目をやった。時計の針は〇時二十三分を指している。それから、今日は七月十五日の日曜日だ。
 十五といえば十五をアラビア数字で書くと「15」になる。更にそれを分解したら「いちご」と読むこともできるだろう。
 そこで、オレはあの娘が食べていたいちご飴のことを思い出し、近くの神社で縁日が開催されていたことを思い出した。
 ――ああ、そうだった。オレはあの娘を縁日に誘ったのだ。
 記憶というものは不思議だ。何気なく目にしたものや聴いたものなどを引き金に先程まで忘却の海に沈んでいた記憶が浮き上がってくるのだから。
 そして、浮き上がってきた記憶はまた別の記憶も呼び起こしてくるのだから厄介だ。
 あの娘とは、前に入院していた病院で出会った。いや、「出会った」というのはおかしいだろう。
 あちらは覚えていない様子だったが、少なくともオレは昔のあの娘のことを知っていたのだから。
 幼い頃のあの娘は、とても活発で外を駆け回る、「風の子」という言葉が似合うような子供だった。
 そんなあの娘が、オレと同じ病棟に患者として入院してきたのだ。
 それを知ったのは、病室前の名札を見た時だった。その時はまさかあの娘がこんなところに来るわけない、きっと同じ名前の別人だと思っていたのだが。
 病棟内で再会したあの娘はガリガリに痩せ細っていて、幽霊と見紛うような風貌に成り果てていた。
 オレはそんなあの娘に近づいた。初対面のふりをして。
 病棟のルールを教えるだとか、ホールで会話するだとかそんなことをした。
 あの娘からは、理由の分からない食欲不振が原因で痩せすぎて何度も倒れるようになってしまったことや、主に身体の治療をするため入院することになったという話を聞かされた。
 それから程なくして、オレはあの病院を出ることになった。いや、主治医に頼み込んで半ば強引に退院したのだ。
 何故かというと、病んだあの娘の姿を見ることに耐えきれなくなったからだ。
 つまり、オレは逃げてしまったのだ。
 退院してからのオレは漸く決まったバイト先でも失敗だらけで友人もなく、煙草を吸うくらいしか楽しみがない灰色の日々を過ごしていた。それは今も同じだ。
 そんなある日、オレはあの娘と病棟で連絡先を交換していたことを思い出してメッセージを送ってしまった。
 どうしてそんなことをしたのかは今も分からない。眠剤を飲んで気が大きくなっていたからだろうか。それとも、寂しかったからだろうか。
 いずれにせよ、それをきっかけにあの娘はオレと会うようになった。退院していたあの娘はまだ痩せていたが、幾分か生気を取り戻していた。
 そして、今日は――いや、昨日の土曜日はあの娘と縁日に行っていたのだ。
 そうだ。思い出した。あの娘は髪を切ったようで、とても可愛らしくなっていた。
 そして、オレはそんなあの娘を前に気分が高揚してやたらと饒舌になってしまい、無神経な話もしてしまった。
 普段のオレは他人と上手く喋ることができない。だから、バイトの休憩時間など会話を避けたい時はついつい煙草を吸ってしまう。
 巷では「喫煙者同士は煙草を介したコミュニケーションを取りやすい」などと言うが、冗談じゃない。
 バイト先の喫煙室では、確かに同僚たちが煙草を吸いながら談笑しているのを目にする。
 でも、オレは談笑はおろか他人と目を合わせて話をすることすらできない。人と視線を合わせるのは怖い。咄嗟に雑談しようにも天気の話くらいしか思いつかない。
 オレはいつからこんな人間になってしまったのだろう。二十代の頃に職場で上司に虐められてからだろうか。いや、それ以前から人と上手く喋れないのは同じだったような気がする。
 オレはいつもそうだ。普段は視線を不自然に泳がせながら曖昧に笑うだけでろくに喋れないくせに、少し調子に乗れば相手のことも構わず思いついたことをべらべらと喋ってしまう。
 きっと、オレがこんな人間になったのも前の職場で上司に嫌われたのもひとえにオレがクズだからなのだろう。そう思っていれば楽だ。
 ――――こんなことを考えていたらまた涙が出てきた。瞼が切れてしまいそうなのでいい加減にしてほしい。
 ああ。また一つ思い出した。今日のオレはあの娘の前で泣いてしまったのだ。そして、あの娘の腕を掴んで傍にいてほしいと縋り付いてしまった。
 いい歳の男が、年端も行かない少女の前で無様に泣いて縋るなんて最悪だ。
 あの娘は、何も言わずこんなオレの傍にいてくれた。でも、今日のことで嫌われてしまった、と思う。
 いや、嫌うも何も最初から好かれてなんかないだろう。一体誰がオレのことを好きになる。
 第一、あの娘はこんな三十路の社会不適合者に貴重な時間を使うべきじゃない。だから、嫌ってくれたなら幸いだ。
 それなのに、オレは今日のことを悔やんでいる。卑怯にも、先程のように忘れたままでいたかったと思っている。
 オレは、こんな自分のことが大嫌いだ。死んでしまえばいいのに、と思う。
 そうだ。きっとオレはあの娘に一言背中を押されたなら潔く死ねるだろう。
 言葉のナイフで一思いに刺し殺してほしい。
 いや、こんなことを望んではいけない。こんな望みを抱くなんて身の程知らずだろう。
 もしオレが死んだら、あの娘は悲しんでくれるだろうかなんて考えてはいけない。
 悲しんでくれたとしたら、それだけでもこの存在が無価値でなかった証だから気持ちが救われるとか考えてはいけない。
 傷だらけになった体を憐れんでほしいとか、体以上に傷付けられて歪んだ心を慰めてほしいなんて考えてはいけない。
 むしろゴミを見るような目で蔑んでほしいとか、この鈍い頭を踏みにじってほしいなんて考えてはいけない。
 それなのに、考えることをやめられない。何かあればあの娘のことを考えてしまう。
 そう。オレはあの娘に依存している。そして、執着をしている。
 何を望んだとしても、それはエゴでしかない。
 ――――こんな自分を、オレは心底から浅ましいと思う。

 *おしまい*
 


 (おまけの与太話)
 15円の人周りのイベントは何だかかざぐるまに対する執着心のようなものを感じて心底からやばいなと思いました。
 かざぐるまは退院しても「治ってはいない」と筆者は考えているのですが、かざぐるま編のTrue endで待っている彼はもしかしたら病みながら病院の外で生きている人のロールモデルの一人になるのかもしれないとかそんなことを考えていました。
 でも、彼の姿はかざぐるま本人にとって理想とは言えなさそうです。

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