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資源ゴミ置き場

あまり健全ではない文章を置いていく場所だと思います。

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家路。

 この文章は嘔吐と繋がっているような繋がっていないような夢を。の永付きさんとUBOK.のEric.さんの話です。
 例によって少し流血表現を含んでいたりゲーム本編からかけ離れた表現を含むのでそれを留意していただけたら幸いです。
 あと、この文章に書いてあることが必ずしも正解というわけではありません。答えはケースバイケースです。
 

 
 思いもよらぬ人が思いもよらぬ隠し事をしている。こんな事実に直面した時、人はそれを容易く受け入れられるだろうか。
 そして、それが自分から知ろうとした結果の事ならば大抵の人はどうするだろう。
 自分の行いを責めるのだろうか。それとも、隠し事をした相手を責めるのだろうか。
 僕は自分がどうするべきか分からなかった。ただ、事実を否定する事しかできなかった。
 
 この日は「彼」が僕の部屋に遊びに来ていた。どちらかというと僕が「彼」を誘ったのだが。
 九月なのに真夏かと思うほどに暑く、二人で学校の図書館から帰る途中に僕の部屋で涼んでいかないかと「彼」を誘ったのだ。
 そういうわけで、僕たちは部屋で他愛のない話をしながらゲーム機を触ったり本棚の漫画を読んだりして過ごしていた。
 それはDVDの映画を見ていた時だ。その時見ていた映画は、探偵物だった。
 映画が終わり、音楽と共にスタッフロールが流れ始めたところで僕は左肩に重みを感じた。僕の左に座っているのは「彼」だ。
 「彼」が座っている方へ目をやると「彼」は眠っていた。そして、その身体は右側へ倒れかかろうとしていた。その様子からしてずっと前から寝ていたのだろう。
「面白い映画だったのに。普通、途中で寝ちゃうかなぁ……」
 僕は呆れながらひとり呟いた。だが、本人は夢の中なので聞こえるはずがない。
 そこでふと、先程二人でゲーム機を触っていた時に「彼」が最近は学校の課題に追われて忙しかったと話していた事を思い出す。
 そういえば「彼」はやや睡眠不足だったのか目に隈を作っていた。
 僕と「彼」は同じ学校とは言っても学部が違うため、「彼」がどんな授業を受けているのかはあまりよく知らない。
 疲れていたのなら、眠ってしまうのも仕方ないだろうか。
 そんな事を考えていると、不意に「彼」が右手で僕の左手首を引き寄せるかのように掴んだ。「彼」は依然眠ったままだ。
 やれやれ。いったいどんな夢を見ているというのだろうか。時折、僕は「彼」がよく分からなくなる事がある。
 寝息を立てる「彼」の右手に何気なく目をやってみる。頻繁に指を深爪にしてしまう僕と違って綺麗な形の爪をした細く長い指だ。
 この細い指で「彼」はいつもパソコンのキーボードをまるでピアノでも弾くような手付きで叩いている。
 そんな「彼」は左利きのようで、「学校のパソコンはテンキーもマウスも右側だからやりづらいよ」と苦笑いしつつ語っていた。
 後は、文字を書く時も右利きが有利にできているからやりづらいと言っていた。もっとも、そう言いつつも右手で文字を書くのも慣れたような手つきではあったが。
 その時、その右手首に着けられたリストバンドが目に留まった。
 リストバンドと言えばスポーツをしている人が着けているイメージが強い。テレビなどでスポーツをする人を見ていると、お洒落なリストバンドもあるのだなと感心する事が多いものだ。
 そういえば、「彼」はどういうわけかいつも右手にリストバンドを着けている事が多い。お洒落の一環なのだろうか。
 そして、それ以外の時は大抵長袖の服装だ。思えば、僕は「彼」が腕を露出する服装をしている姿を殆ど見た事がない。
 僕もまた長袖の服装をしている事が多いが、元々肌が日光に弱いせいで日焼けするとすぐに肌が赤くなってしまうので止むを得ずの事だ。
 「彼」の場合は少ないながらもたまに半袖の服装をしている事もあるので別に肌が日光に弱いというわけでもないのだろう。
 まさか、腕に刺青でも入れていてそれを隠しているなんて事があるまい。確か刺青を入れた人は銭湯に入る事が出来ないのだっけ。
 そんな冗談めいた事を思い、僕は好奇心から「彼」の右手のリストバンドをそっと外した。
 そして、露わになった「彼」の細い右手首を見た僕ははっとした。
 「彼」が着けたリストバンドの下にあったものは傷跡だった。それも、何本にもわたって重なり合う線のような傷跡だ。
 これはどういう事なのだろうか。数秒間ほどは思考が止まり、自分が目にしたものの意味を理解できなかった。
 見てはいけないものを見てしまった。
 思考が動き始めたところで咄嗟に僕は「彼」の右手にリストバンドを着け直した。
 手首の上、不慮の事故によるものだと言うにはあまりに不自然に重なる切り傷の跡。それが意味する事は大体の予想が付いた。
 それでも、それがどうか思い違いであってほしいという念を拭う事が出来なかった。
 暫く茫然としていると「彼」が小さくうなり声を上げながら目を開いた。
 そして、「彼」は寝ぼけた声で言った。
「ああ……僕、寝ちゃってた? 犯人誰だった?」
 僕はその一言に呆れずにいられなかった。
 ずっと寝ていた人へどうやって映画の展開を説明すればいいというのだろうか。
「犯人は誰って、ずっと寝ていたでしょ。どこからどう説明したらいいっていうの」
「いや、主人公が犯人を絞り込むところまでは起きていたんだよ。でもそこで寝ちゃったんだ」
 そう言う「彼」は慌てた顔だ。
 いつも落ち着いた表情をしている事が多い「彼」が慌てる様子はどこか面白おかしい。
「そこまで見ていたのならもう少しで推理シーンだったのに、普通そこで寝るかな?」
 僕はそう言いながら腹を抱えて笑い転げた。そして、「彼」もあははと笑った。
 それから程なくして、「彼」はこの後も用事があるというので帰る事になった。
「今日は楽しかったよ。ありがとう」
 玄関の前で「彼」はそう言いながら笑顔で手を振った。
 
 「彼」を見送った僕は自室に戻った。
 今、この部屋はとても静かで先程まで「彼」と一緒にいた事が嘘のようだ。
 誰かと一緒にいて、別れた後に押し寄せる妙な孤独感には中々慣れる事が出来ない。
 僕は一人、部屋の後片付けを始めた。
 片付けが終わったところでベッドの脇に目をやると綺麗に畳まれた灰色のパーカーが置いてあった。「彼」が忘れたのだろう。
 僕はベッドの脇に座るとパーカーを手に取り、その袖の手首をぎゅっと掴んだ。
 やはり僕が見たあの傷跡は自分で付けたものなのだろうか。
 この事には触れるべきなのだろうか。それとも相手が何も言わないのなら触れずにおくべきなのだろうか。
 でも、何も知らないふりをし続けるのは多分無理だ。
 もし「彼」が本当に自分を傷付けていたとすれば、何かに悩み苦しんでの事だったのだろうか。
 そういえば、自傷は度が過ぎると最悪の場合は死に至る場合もあると聞いた事がある。
 まさか「死にたい」と思った事が「彼」にもあったのだろうか。いや、今も思っているのだろうか。
 そんな物騒な事が頭をよぎり、僕は無意識に頭を横に振っていた。
 その時、玄関を出る前に見せた「彼」の笑顔が頭をよぎった。
 「彼」はあんな風に普通に笑う事が出来る。そんな人が自分を傷付けているなんて思えない。
 僕は、先程見た「彼」の手の事を何かの間違いだと思おうとしていた。傷を「なかった事」にしようとしていたのだ。
 
 
 その次の日の夜、夢を見た。
 いつの間にか、僕は「彼」の部屋にいた。生活感がほとんど感じられない灰色の殺風景な部屋だ。そして、部屋はベランダの窓が開きっぱなしだった。
 「彼」は椅子に座ってこちらに背を向けている。その様子は、ベランダの窓を凝視しているようにも見えた。窓の向こうにはただ暗闇が広がっている。
 「彼」はベランダの窓の向こうに一体何を見ているのだろうか。
「ねえ、どうしたの?」
 そう声をかけても「彼」は背中を向けたまま何も答えない。
 窓からは嫌に湿った風が吹き込んでくる。机越しに見えるその背中からは、何故だか妙に不穏な空気を感じた。
 今は一人にしておくべきなのだろうか。そう考えた僕は部屋を出る事にした。
 どうして「彼」は黙り込んだままだったのだろうか。もしかして、怒っていたのだろうか。
 そうだとしても、振り向きもせず無視するなんてあんまりだ。
 その時、どこからか「どすん」という音が響いた。
 何かが高い所から落下したような、叩きつけられたような音だ。そして、それはドアの向こうから聞こえたような気がする。
 ドアを開け、再び「彼」の部屋に入るとそこに「彼」の姿はなかった。
 机の上には一枚の紙切れが置かれ、開きっぱなしになったベランダの窓からはひゅうひゅうと風が吹き込んでいる。
 ベランダに出ると、そこには階段状になった踏み台があった。その上には一足の黒い靴が綺麗に揃えられている。
 僕は、この踏み台をどこかで見た記憶がある。この階段状の踏み台から身を投げた少女の話を聞いた事がある。
 まさか。そんな事が。心臓の音が大きくなり出し、額に冷や汗が滲み出すのが分かった。
 ベランダから地上を見下ろしても暗闇が広がるばかりで何も見えない。
 僕は部屋を飛び出し、アパートの階段を駆け降りていた。
 アパートを出ると、入口のタイルの上に「彼」はうつ伏せで倒れていた。左こめかみから流れる血が灰色のタイルの上に滲んで広がっていく。
 「彼」の傍に座り込み、その右手を取る。その手にはもう脈はなかった。
 そして、薄く開かれたままの目にはもう何も映らない。
 どうしてこんな事になってしまったのか。おそらく、僕が部屋を出ていったのが間違いだったのだろう。
 まず、どうして僕はベランダの踏み台に気付かなかったのだろうか。
 気付かなかったというのは間違いだ。ただ単に都合が悪いから見えないふりをしていたのではないだろうか。
 吐き気と頭がぐらぐら揺れるような眩暈と共に気が遠くなっていく。
 最後に「彼」の手が体温を失って冷たくなっていくのが分かった。
 地面に流れる血はタイルの隙間に沿って赤い脈を描きながら広がっていく。
 そこで、僕の意識は途絶えた。
 
 
 目が覚めると、外はまだ真っ暗だった。
 今まで見ていたものは夢だ。それなのに、冷たくなっていく「彼」の手の感触が僕の手に残っている気がする。
 まだ寝直せるはずの時間なのだろうが、再び眠ろうという気にはなれなかった。
 ベッドの脇には「彼」のパーカーが置かれている。気が付くと、僕はそれを胸に抱きかかえたまま泣き崩れていた。
 僕は何故泣いているのだろう。僕は「彼」に同情しているのだろうか。それとも「彼」を失うのではないかという不安を感じているのだろうか。
 どちらも正解のようで正解ではない。ただ、今の僕は混乱している。それが一番正しい答えだろう。
 一しきり泣いて、ふとガラス窓に目をやると僕がぼんやりと映っていた。泣いたせいでとてもひどい顔だ。
 そして、抱きかかえたままだった「彼」のパーカーも涙に濡れていた。これでは返しになんていけない。
 まず、僕はどんな顔をして「彼」に会えばいいのだろうか。それも今は分からないままだ。
 それでも、事実がどうであれ何も言わないまま「彼」を避けるというのは一番いけない事だろう。
 僕は、頭の隅でそれをやろうと考えていた事を否定できない。あの夢は、もしそうした場合の最悪の結末を表していたのだろうか。
 再び流れ落ちた涙が、パーカーの上にまた新しい染みを作った。
 「彼」が何かを言わない限りは、今までと同じように接するのが一番いいのかもしれない。
 もし「彼」が何かを語ったとしたらそれはその時に考えるべきであって、今はむやみに関係を変えようなんて思わない方がいいのかもしれない。
 窓の向こうに目をやると、東の空が少しずつ明るくなり出していた。
 今日、洗濯を終えたら「彼」にパーカーを返しに行こう。
 
 *おしまい*
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