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資源ゴミ置き場

あまり健全ではない文章を置いていく場所だと思います。

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ハッピーエンドが見られない。(R-18G)

 1.この文章は夢を。の永付きとUBOK.のEric.のもしもシリーズな話です。
 2.文中にグロテスクな表現を含むので閲覧はご注意ください。
 3.部屋から出られなかったゆめにっき派生主人公の末路とは。
 4.少し足りないところを加筆しました。(2013年9月21日追記)
 5.さらに加筆と改変をしました。(2014年8月6日追記)

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 目の前の呼び鈴を鳴らす。だが、部屋の主は返事をしない。
 再び呼び鈴を鳴らす。だが、部屋の主が返事をしないのは同じだ。 
 それは九月のとても暑い日のことだった。この日の僕は「彼」の自宅があるアパートを訪れていた。
 「彼」にはかれこれ一ヶ月ほど会っていない。
 「彼」も僕も元々人と連絡を取るということに関して不精な質であったので数日ほど連絡を取らないということは珍しくなかったのだが、一ヶ月も連絡を取らないままになるのは今回が初めてだったのだ。
 最近の「彼」はどうも“ZONBI”という名前のファミリィゲームにはまっていたらしい。
 最後に学校の食堂で会った時に「彼」はそういった旨のことを話していた。
 だから、僕は二週間経つまでは「ZONBIに夢中なのだろう」と敢えて連絡をすることもなかったのだ。
 だが、三週間を過ぎた頃になって僕は段々とおかしいことに気付き始めた。
 「彼」の携帯電話にメールを送っても、家に電話をかけてみても全く返事がないのだ。
 メールの内容は「そんなに面白いゲームならZONBIを貸してほしい」とかそんなくだらないものだったが、いくら「彼」が不精な人間だからといってもメールや電話を無視し続けるということは今までなかったことだ。
 もしかすると「彼」に何かあったのではないかということに考えを巡らせたのはこの時が初めてだった。
 そうした次第で、僕は急きょ「彼」の自宅アパートに赴くことにしたのだった。
 だが、部屋の呼び鈴を何度鳴らしても「彼」は全く返事しない。
 扉には鍵がかかっているようでドアノブを押しても引いてもガチャガチャと音を立てるだけで全く開かない。
 もしかして、外出中なのだろうか。そうだとすればいつここに戻ってくるのだろうか。
 そんなことを考えていると、ふとアパートの玄関にある住人の郵便受けのことが頭をよぎった。
 郵便受けの前は何気なく通り過ぎてしまったが、一つだけやけに郵便物が溜まった郵便受けがあった気がする。
 それがどの部屋のものかは覚えていないが、「彼」の部屋だったような気がする。
 一抹の不安を感じてアパートの階段を駆け降りる。行く先はただ一つだ。
 そこには住人の郵便受けが並んでいる。その隅っこには郵便物が溢れかえらんほどに溜まった郵便受けがあった。
 僕はその郵便受けの傍に歩みを進める。額に嫌な汗が滲んでいくような気がした。
 郵便受けの名札を見たその時、僕の嫌な予感は確信に変わった。
 それは、紛れもなく「彼」の名前だったのだ。
 いくら何でもこんな量の郵便物を放置したままというのはおかしい。まず、「彼」はここまで不精ではなかったはずだ。
 というよりはむしろ、手紙類の始末はこまめにする奴だったはずだ。
 再び「彼」の部屋の前に戻ったその時、僕はどこからか奇妙な臭いがすることに気付いた。
 一体この臭いは何なのだろうか。今まで嗅いだことがないような不快な臭いだ。
 そして、それはまるで何かが腐敗しているかのようだった。
 これはアパートの大家に知らせるべきだろう。何より、「彼」の消息が分からないまま帰るべきでない。
 僕は大家の部屋に駆け足で向かい、その呼び鈴を鳴らした。その時の僕の足はがくがくと震えていた。
 暫くすると、眼鏡をかけた中年の男が出てきた。彼がこのアパートの大家らしい。
 荒い息を吐きながら事情を説明すると、大家はどこか諦めたような訝しむような何とも言えない表情を浮かべた。
 その顔は「やっぱりそうなのか」と言いたげだ。
 彼は前日にもアパートのどこかから異臭がするという連絡を受けていたらしいが、前日は異臭の元を特定するには至らなかった。
 そして、僕の申し出がどうやら異臭の元を特定する決定打となったとのことだった。
 数週間も連絡が取れない住人。郵便受けに溜まった大量の郵便物。部屋の外に漏れる異臭。
 これらの事柄から想定できることは僕にも想像がついた。
 それでも、どうか間違いであってほしいと願う気持ちは捨てきれなかった。
 今はただ「彼」の消息を明らかにせねばならない。
 僕は、合鍵をもった大家と共に「彼」の部屋に向かった。
「ここが、君のお友達の部屋なんだね。無事であってほしいが……」
 大家は僕に向けてそう言った。
 鍵ががちゃりと音を立てて開く。
 その時、僕は既に嫌な汗が止まらなくなっていた。
 扉を開くと、先程よりもひどい悪臭が漂い始めた。この臭いは明らかに「彼」の部屋からのものだった。
 吐き気に耐えながら部屋に入ると、玄関には一足の黒いブーツが置かれたままになっている。これは「彼」がいつも履いていたものだ。
 そのすぐ傍には浴室とトイレがある。辺りには何匹もの羽虫が飛びまわっていた。
 土足のままだったがそんなことには構っていられない。僕はただ「彼」の名前を呼びながら室内に足を踏み入れていた。
 背後からは大家の「やめろ」という声が聞こえたが、そんなことにも構っていられなかった。
 居間にも「彼」の姿はない。部屋の中はやけに綺麗に掃除されている。ただ、漂う腐臭と飛び回る羽虫を除いて。
 それは寝室と思しき部屋の前に立った時だった。先程からの腐臭が一際強いものとなったのだ。
 ――――絶望だ。
 その時、そんな考えが僕の頭をよぎった。
 僕は小さく頭を振る。途切れ途切れに「彼」の名を呼ぶ僕の声はひどくかすれていた。
 首の中で動脈が暴走し出し、心臓の音が頭に響いてくる。相変わらず汗は止まらず、全身はまるで水を被ったようになっていた。
 僕は震える手で扉を開いた。
 その瞬間、激しい吐き気が僕を襲った。
「おい、大丈夫か」
「早く警察を……」
 部屋に崩れ落ちて嘔吐する僕の後ろ、大家の叫ぶ声と足音が遠くから響いて聞こえてくる。
 だが、僕はこれ以上目の前の光景を見ることも聞くことも拒んでしまったのだ。
 そこにあったのはやはり「絶望」だった。
 それから数日のことは殆ど何も覚えていない。
 
 机の上に置かれたままの電源が切れたノートパソコンと数枚の手書きメモ。
 電源が切れたまま何も映さない薄型の大型テレビ。その傍に置かれた据え置きのゲーム機。
 ベッドの上に置かれたままのリストバンド。カーペットに転がる、体液まみれになり刃が錆びたカッターナイフ。
 腐臭を放つ体液でどす黒い色に染まった真っ白だったはずの壁と、灰色だったはずのカーペット。
 既に「彼」であることをやめた、それでも確かに「彼」だったはずの虫に喰われ続ける骨。
 それが、僕があの日に「彼」の部屋で見た光景だった。
 それらはいくら拒んでも瞼の裏に、鮮明に浮かび上がってくる。
 あのアパートで「彼」の死を目の当たりにしてから数日間の記憶が全て曖昧になってしまったのにも関わらずだ。
 
 「彼」はあのアパートで孤独死していた。「彼」は自ら命を絶っていたのだ。
 さらに、何日も気付かれないままだったその死体は腐敗が進み、白骨化が既に始まっていた。
 どうして「彼」は何も言わないまま逝ってしまったのだろうか。
 何故もっと早くに気付いてやれなかったのだろうか。
 もっと早くに連絡を取っていれば「彼」は死なずに済んでいたのだろうか。
 それとも、いずれにしても「彼」は自宅アパートの部屋で手首を骨まで切り刻みながら死ぬ運命だったのだろうか。
 そんな途方もない問いが今日も僕を苛む。
 葬儀の時、「彼」の死体は白い布にくるまれた状態で棺に納められていた。それは当たり前のことだろう。
 僕がアパートで「彼」を見た時、その顔は虫に集られて頭蓋骨が見えるほどに崩れてしまっていたのだから。
 僕と共に葬儀に出ていた級友たちは「彼」の顔がどんなに変わり果てていたかなんて知らない。「彼」の級友のうち、死んだ「彼」の顔を見たのは僕だけだろう。
 僕は、大家の制止に従っていた方が良かったのだろうか。
 そうすれば、僕は「彼」の死体を直接目にすることもなかったはずだ。
 死んだ「彼」とあのアパートで対面したあの日から、僕の身体には「彼」の死臭が染みついている。
 その臭いはまるで自分のすぐ傍に崩れた顔の「彼」がいるのかと思えるほどにひどい臭いだ。そして、それは浴室で何度身体を洗っても取れないのだ。
 そのせいで、僕はあの日以来、自室にこもりがちになってしまった。
 「彼」のアパートに行った日からどれくらいの月日が経ったのか。まるであの日から時間が永遠に止まってしまったかのようで、それさえも曖昧だ。
 家族や級友は僕を心配してこの部屋の扉の向こうまでやって来るが、それに応える気力すらない。ただ「放っておいてほしい」という気持ちしか抱けないのだ。
 これからも僕は止まってしまった永遠とも言える時間の中、「彼」の死臭と腐乱した血が染みついた身体で一人生きていくのだろうか。
 そうだ。「彼」はどす黒い死の底にいるのではない。
 「彼」は「彼」であることをやめてもなお、いつも僕のすぐ傍にいるのだ。
 今や、この死臭だけが今や唯一「彼」と僕を繋ぐものなのだろう。
 本当に「彼」はあんな形の最期を迎えることなんて望んでいたのだろうか。それは今となっては分からない。
 少なくとも僕は、いつまでもこの死臭を抱いてこの部屋に閉じこもりながら孤独に死んでいくことは望んでいない。
 僕を苛んでいるものというのは死体の臭いなどではなく、「彼」が抱え込んでいたであろうものや、その死に何週間も気付いてやれなかったことへの後悔なのではないか。
「気付いてやれなくて……本当にごめんね……」
 気が付くと、僕は死臭が染みついた両手に顔を埋めながら呟いていた。
 僕は両手に顔を埋めたまま息を深く吸い込んだ。
「さようなら……いつになるかは分からないけれど、いずれは僕も君のところに逝くから。また会えるのなら、その時には……迎えに来てくれたら……」
 僕が「彼」に対して別れの言葉を呟くのはこれが初めてだった。
 再び息を深く吸い込むと、先程まで強く臭っていた死臭は存在しなかった。
 「彼」が死んで以来、僕が涙を流したのはこの時が初めてだった。
 
 *おしまい*
 


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