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資源ゴミ置き場

あまり健全ではない文章を置いていく場所だと思います。

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仄暗い下水道の底から。

 (まえがきのような何か) 
 この文章は『』と『悩める魔術士の自虐癖と掃除屋の孤独』の間の話のようなものになっています。
 例によって全てがねつ造なのでそれを留意していただけたらこれ幸い至極です。こちらはバルザック視点。

 

 
 掃除のため暁闇の街を回り終わった頃にはもう既に朝日が昇ろうとしていた。
 昨夜はひどい雷雨だった。そのせいで外に出る者がいなかったからなのかゴミはとても少なかったように思える。
 バケツとモップを片手に街を歩いているとすれ違う人たちが僕に挨拶をしてくる。
「君はこんな朝早くから街中を掃除して回って偉いね」
 彼らは皆僕に向けてそんな言葉をかけた。
 僕はその度父が生きていた頃から清掃員という仕事がこんな風に感謝されるものだったら良かったのにとほろ苦い気持ちにさせられた。
 三年ほど前に病に倒れ墓中の人となった僕の父は水と芸術の都と呼ばれるこの街の美しい風景を愛し、街の清掃に一生を捧げた人だった。
 だが、清掃員という仕事はノースティリスではあまり尊敬されるものではなかったらしい。父が人から敬意を持たれることはなかった。
 それでも僕はそんな父に憧れ、自分も父のような掃除屋になりたいと思っていたのだ。
 あとは、この街の地下にある下水道を見に行くだけだ。昨夜の大雨を考えるとかなりのゴミが流れ込んでいることだろう。
 だが、雨が降った次の日の下水道は大抵水かさが増し、その流れも速くなっているのでとても危険だ。
 そのことを思えば今日は下水道へ入るべきでないが一つ気がかりなことがあった。
 下水道へと続く階段に、何者かが立ち入った痕跡があったのだ。
 下水道へ立ち入る者は僕の他にも何人かいる清掃員か僕くらいしかいない。
 他の清掃員については昨夜は大雨だったのでわざわざ下水道へ入るなんてことはしないはずだ。それはまさに自殺行為に等しいことなのだから。
 そして、たまに変わり種な冒険者が下水道に立ち入ることが全くないわけではないが、冒険者がこの街に来たという話は全く聞いていない。
 そうだとすれば、一体誰が下水道へ入ったというのか。
 そう思案するうち、僕は何とも言えない嫌な予感がした。
 その時、僕は一年ほど前にこの街で出た一人の自殺者の話を聞いたことを思い出していた。
 確か、その人は僕と同じくらいの年齢の少女だったと聞いた覚えがある。
 彼女は心を患い、近所では厄介者として嫌われていたそうなのだが療養先で突然湖に身を投げて死んでしまったらしい。
 もっとも、僕は彼女やその周囲の人間と面識があったわけでなかったので詳しいことは分からないが。
 その少女と同じように、もし誰かが自殺を図るためにこの下水道に入ったとしたら――――。
 あるいは、自殺ではなくても誰かが敢えて下水道に入り込みうっかり流されてしまったとすればそれはとてもまずいことだ。事実、何人かの清掃員はそうして下水道で命を落としている。
 そんなことは僕自身の思い過ごしであってほしいと思ったが、やはり確かめに行かなくてはいけないと思っていたのだった。
 
 階段を降りていくと、下水道には案の定落ち葉や紙切れといったゴミがたくさん流れ込んでいた。
 しかし、どういうわけかその水量は想像したものよりは減っており、流れはさほど激しいものではなかった。
 それでも僕は足を取られ転ばないよう慎重な足取りでゴミを拾いつつ薄暗い下水道の奥へ奥へと進んでいった。
 今のところはこの下水道に人の気配はない。通路には水草や藻、魚の死骸が打ち上げられて今まさに干からびようとしている。
 その様子を目の当たりにすると、僕はそれらをバケツに放り込みながらげんなりした気分にさせられるのだった。
 魚の死骸はやがて腐って悪臭を放つ。そして、藻や水草は歩くたびに足に絡み付くので邪魔で仕方ない。
 だが、こうした水草や魚はこの水路の水質が良いことを証明するものでもある。
 ルミエスト下水道が「下水道」という名に似合わず魚が住むほどの場であるのは亡き父を含めたその他の清掃員の努力の賜物だ。
 だからこそ、僕は清掃員に憧れたのだ。
 水路を進んでいくと、通路の末端に打ち上げられた黒い影が目に留まった。あれは何だろうか。
 慎重な足取りで影に歩み寄ると、程なくしてそれが人であることを理解した。
 その人は水路の傍でうつ伏せになって倒れていた。黒く長い髪からして女だろうか。その女らしき人はひどく痩せた身体に黒く丈の長いローブと菫色のスカーフを纏っていて、全身は藻まみれだ。
 その肩を叩く。だが、相手は全く反応する気配がなく、全身はずぶ濡れで氷のように冷たい。
 この人は何故こんなところで倒れているのだろうか。間違ってここに入りこんだのか、それとも身を投げたのか。いずれにしても早くここから運び出さねばならない。
 僕はその人の身体を肩で支え、そのまま引きずるようして下水道の階段を目指した。
 だが、僕一人の力では階段の前までその人を運ぶのが限界だった。この人は僕よりもずっと背が高い。これ以上引きずったら余計に怪我をさせてしまうだろう。
 僕は階段の前にその人を横たえ、階段を駆け上がってすぐ傍にある宿屋に駆け込んだ。
 宿屋ではちょうど若いガードの男が一服しているとこだった。
「おい、どうしたんだ。一体何事だ」
 ガードはいささか眠そうな顔だったが、息を切らしながら宿屋に飛び込んできた僕に驚いたような顔を見せた。
 それに対して僕は状況を説明しようとするが、息が上がるせいで声が出てこない。
「げ、下水道で人が倒れて……」
 そこまで言ったところで僕はひどくむせ返った。
「大丈夫か、少し落ち着け。人が倒れていたんだな。その人の具合はどうなんだ」
「水に落ちたのか、反応がないんだ。早く運び出さなくちゃいけないが、俺一人では無理だ」
 尋ねるガードに対し、僕は息を整えながら答えた。
「そうか、こうしている場合じゃないな。早く行こう」
 ガードは椅子から立ち上がると、僕の手を引いた。
 ガードと共に階段を降りると、先程の黒ローブの女らしき人が横たわっている。
「この人だな。早く癒し手のところへ運ばなくては。僕は頭側を支える。君は足の方を支えてくれないか」
 ガードはあくまで冷静だ。僕はそれに応じて倒れているその人の足を支え、階段を上った。
 癒し手がいる魔術士ギルドの建物まで着いた頃には寒いにも関わらずガードも僕も汗だくになっていた。
「おい、誰か起きていないか。助けてくれ」
 ガードはギルドの建物内に向けて叫んだ。
 暫くすると、建物の奥から長い緑髪の男が眠そうな顔で出てきた。彼はこのギルドの番人だ。
「朝から一体何事だ」
 番人の男は片目をこすりながらガードに尋ねた。
「下水道に落ちた怪我人を運んできた。早く癒し手の処置を受けさせないといけないんだ」
「下水道だと? とにもかくにもその人を見せてくれ。私は癒し手を呼んでくる」
 よく見ると、番人の髪は寝ぐせでぼさぼさだ。先程起きてきたばかりなのだろう。
 番人が癒し手を連れてくると、ガードと僕は怪我人を床に敷かれた毛布の上に横たえた。僕がその人の顔を初めて白日の下で見たのはその時だった。
 その人は美系と呼ばれる部類の顔だったのだろう。黒く長い睫毛に鼻筋が通った顔だ。だが、血の気を完全に失った肌とひどく痩せた頬はまるで死人みたいだ。
 その時、僕は番人が顔を妙に引きつらせていることに気付いた。
「お、お前は……レントンなのか……? 一体何故こんな……」
 彼はわなわなと震えながら呟いた。
 番人の様子からすると、この人は彼の知り合いだったのか。「レントン」というのはこの人の名前なのか。
 癒し手は僕とガードが見ている前でその人の衣服を緩め、脈や呼吸を診始めた。一方、番人はその横でうなだれている。
「番人さん? この人は……」
 僕は尋ねた。
「この男は数ヶ月前にギルドから行方をくらませていたんだ。まさかこんな姿で見つかるなんて……」
 番人は鼻をすすりながら答えた。その時、僕は番人が「男」と言ったのを聞き逃さなかった。
 長い髪からして勝手に女かと思っていたが、あの人は男だったのか。早合点にもほどがあるんじゃないか。
 そこで、癒し手が番人に声をかけた。
「レクサスさん、もう一枚毛布を持ってきてください。それから担架も」
「ああ……」
 番人は力が抜けた声で答えると、地下へ続く階段を駆け下りていった。
 床に横たわるレントンという名の男に目をやると、首を隠していたスカーフは外されてローブの胸元もはだけさせられている。
 この人が女でなくて良かったのかもしれない。緊張した空気の中、僕はそんな不謹慎なことを考えていた。
 暫くすると、番人が地下から毛布と担架を運んできた。
 そして、僕に向けて尋ねた。
「君の名は何というのだ。この男をここまで運んできてくれたのだから、感謝しよう」
「俺……僕は『バルザック』です」
「バルザック君か。本当にありがとう」
 番人は緊張する僕に頭を下げると、癒し手と共にレントンを担架に乗せてギルドの地下へと運んでいった。
 僕たちの役目はどうやら終わりらしい。どうか。あの人が助かりますように。
 僕はそう願いながら、ガードと共に魔術士ギルドを後にした。
 そして、ガードは街の見張りに、僕は自宅にとそれぞれの生活へ戻っていった。
 
 *つづく*
 

 
 *つづきはこちらから*
 
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